特定非営利活動法人 血管腫・血管奇形の患者会

血管腫・血管奇形とは

 血管腫と血管奇形は、血管の内皮細胞の異常であるかどうかで根本的に異なる疾患です。血管腫は血管内皮細胞の増殖や過形成によるもの、血管奇形は血管の拡張や形成異常によるものとされています。

 1976年にJohn Mulliken医師とAnthony Young医師によりボストンで血管病変に関するインターナショナルワークショップが開催され、血管腫と血管奇形は明瞭に区別されるようになりました。その後、2年に一度のワークショップが続き、1992年には専門家の学会としてISSVA(International Society for the Study of Vascular Anomalies)が設立され、1996年にISSVA分類が作られました。病理学的・分子生物学的な研究の進歩による対象疾患の多様化と増加に対応するため、2014年には18年ぶりに大幅に改訂され、さらに2018年にも改訂されています。ISSVA分類は、ISSVAのホームページ内にあるこちらのページからどなたでも見ることができます。PDF形式で全20ページあり、最初のページに概略表が掲載され、それぞれの細かい分類についてはリンクで該当箇所にとぶようになっています。(日本語訳については、こちらの『血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形・リンパ管腫症診療ガイドライン2022』のP.68~75に一部和訳改変して抜粋されていますので、ご参照ください。)

 以下に、前述のガイドラインを参考に、ISSVA分類の中で良性型の脈管性腫瘍とされている「乳児血管腫」「先天性血管腫」「房状(ぼうじょう)血管腫」、脈管奇形とされている「毛細血管奇形」「静脈奇形」「動静脈奇形」「リンパ管奇形」「リンパ管腫症/ゴーハム病」についてと、脈管奇形関連症候群のうち「スタージ・ウェーバー症候群」「クリッペル・トレノネー症候群」「パークス ウェーバー症候群」「先天性血管拡張性大理石様皮斑」「青色ゴムまり様母斑症候群」「オスラー病」について記載します。
 疾患についての情報は、こちらの難治性血管腫・血管奇形薬物療法研究班情報サイトも参考にしてください。

目次
1. 乳児血管腫
2. 先天性血管腫
3. 房状血管腫
4. 毛細血管奇形
5. 静脈奇形
6. 動静脈奇形
7. リンパ管奇形
8. リンパ管腫症/ゴーハム病
9. スタージ・ウェーバー症候群
10. クリッペル・トレノネー症候群
11. パークス ウェーバー症候群
12. 先天性血管拡張性大理石様皮斑
13. 青色ゴムまり様母斑症候群
14. オスラー病

 血管内皮細胞が増殖する良性の腫瘍で、日本では従来から「いちご状血管腫」とも呼ばれています。出生時には存在しなかったり目立たなかったりしますが、生後2週間程度で病変が明らかになってきます。表在型、深在型、混合型があり、表在型では皮膚に赤く小さな凹凸を伴っていちごのような見た目になりますが、深在型では皮膚の深いところに存在するため皮膚表面にそのような色の変化はありません。多くの場合は視診によって診断されますが、ほかの脈管性腫瘍や脈管奇形との判別が難しい場合があり、特に深在型では他の疾患と見た目だけでは区別がつかない場合があるため、それらを判別するためにMRIや超音波検査などの画像診断が有用になることもあります。
 増殖期と呼ばれる1歳半くらいまでは病変が増大しますが、退縮期と呼ばれる5歳くらいまでに徐々に縮小していき、消失期と呼ばれる5歳以降には退縮傾向がほぼ完了します。これらの経過は個人差が大きく、すべての経過に10年を超えるものもあります。
 小さな病変は最終的に消失する場合も多いですが、隆起が強い場合には退縮した後に整容的な面で問題となることもあり、深在型の病変では退縮した後に皮膚が硬くなったり脂肪となって残る場合もあります。また、発生部位によっては気道の閉塞、視野の障害、哺乳障害などの機能障害や、潰瘍、出血、二次感染などの危険性もあり、これらの場合には早い時期で治療を検討する必要があります。
 治療としては、プロプラノロール、手術療法、ステロイド療法、レーザー、塞栓/硬化療法、イミキモド・液体窒素療法、さらにインターフェロン、シクロホスファミド、ブレオマイシン、ビンクリスチン、ベカプレルミン、シロリムス、放射線療法、持続圧迫療法などの有効例が報告されています。もともと自然退縮傾向があるために治療効果の判定が難しく、臨床試験などで効果が充分に実証された治療は多くはありませんが、欧米ですでに使われてきたプロプラノロールが日本でも2016年に承認されたため、機能面や整容面で問題となる乳児血管腫に対しては、現在はプロプラノロールが第一選択として用いられています。ただし、プロプラノロールには副作用として血圧低下、徐脈、睡眠障害、低血糖、高カリウム血症、呼吸器症状などがあり、充分な注意が必要です。様々な状況から治療の有益性と危険性を考慮して治療計画をたてる必要があります。

 出生時より存在する比較的まれな脈管性の腫瘍で、出生時にすでに腫瘍の大きさがピークとなっているため、出生後に増大することはあまりありません。自然に消退するものは急速退縮性先天性血管腫(RICH)、自然に消退しないものは非退縮性先天性血管腫(NICH)と分類されていましたが、近年、RICHと診断された症例のうち、完全に消退せず部分的に病変が残った症例があり、両者の中間型として部分退縮性先天性血管腫(PICH)という概念も提唱されるようになっています。
 治療は、RICHでは基本的に経過観察となりますが、大きな病変で血小板減少や出血、心不全のような急を要する合併症がある場合には手術や塞栓療法を行うこともあり、退縮までに潰瘍を形成したり痕が残る場合には対症療法や外科的治療が検討されます。NICHでは主に整容的な面での切除が検討されます。

 1976年に初めて報告された脈管性の腫瘍で、血管芽細胞腫(中川)と基本的に同じです。5歳未満での発症が60~70%を占め、1歳以前の発症は25%とされていますが、50歳以上での発症もあります。四肢や体幹にできることが多く、小さな赤色の発疹や1cm未満の丘疹(きゅうしん)と呼ばれる発疹、それよりさらに大きな結節(しこりのようなもの)などから始まり、次第に増大します。圧痛や多汗、熱感、多毛などが見られることもあります。全体の約10%は自然に消退するといわれており、特に乳幼児期までに発症した小さな病変では消退する傾向が強いようです。
 治療は、整容的な問題や圧痛などの問題がなく無症状であれば経過観察となることも多いようですが、治療が必要な場合には、外科的治療、色素レーザー、放射線照射、持続圧迫療法、塞栓術のほか、ミノマイシン、副腎皮質ステロイド、トラニラスト、プロプラノロール、シロリムス、インターフェロンα、シクロフォスファミド、ビンクリスチン、ステロイド外用、プロトピック外用のような薬物治療が有効であった報告があります。近年では、シロリムスの有効性が期待されていますが、現時点ではどの治療法が良いのかはまだはっきりしていません。また、腫瘍内で血小板が大量消費されることによっておこる血液の凝固異常であるカサバッハ・メリット現象が合併することがありますが、現時点では有効な治療法は確立されていません。

 皮膚、粘膜の毛細血管が異常に拡張する疾患で、脈管奇形の一種とされています。従来「単純性血管腫」「ポートワイン母斑」と呼ばれていたものは、ISSVA分類では毛細血管奇形となります。毛細血管奇形単一の疾患のみならず、他の脈管奇形と合併した毛細血管静脈奇形、毛細血管リンパ管奇形、毛細血管リンパ管静脈奇形、毛細血管動静脈奇形などもあります。また、毛細血管拡張症や先天性血管拡張性大理石様皮斑などもこの疾患の範疇に含まれます。下肢に見られる混合型脈管奇形でもあるクリッペル・トレノネー症候群、眼病変や頭蓋内病変を伴うスタージ・ウェーバー症候群などの一症状として認められる場合もあります。顔面正中部で眉間やうわまぶた、鼻すじ、うわくちびるなどにあるものはサーモンパッチ、首の後ろにあるものはウンナ母斑と呼ばれ、5歳頃までに自然に消退するものもあり、特にまぶたのサーモンパッチについてはその傾向が強いようです。
 出生時は紅色であることが多く、1~2か月でピンク色や赤色に変化し、成人になると徐々に暗い赤色となって、皮膚表面の状態が変化してくることも多くあります。顔面では、成長に伴って頬や口唇の下の軟部組織や骨の過形成がおこって口腔の機能異常をもたらすこともあります。
 治療は、色素レーザーが第一選択として広く使用されています。1990年代後半に開発された皮膚冷却装置を装備したパルス可変式の色素レーザーによって、深部の血管や口径の大きな血管の治療も可能となりました。治療開始年齢が低いほど有効率が高いとする報告もあります。一方で、部位によって治療効果に差があり、完全には消えない場合や治療後に再発する場合もあり、長期間経過して皮膚が厚くなったり皮膚の組織が肥大している病変に対しては、レーザーよりも外科治療(切除、再建)を行うほうが満足を得られやすいとの報告もあります。

 胎生期における脈管形成の過程で血管内皮細胞の低形成や血管壁の平滑筋の欠損などが起こり、静脈系の脈管が拡張した疾患です。一般的には海綿状または袋状に拡張した静脈腔のある血液貯留性腫瘤病変ですが、血栓や静脈石により内腔が存在しない病変や、内腔が細かい蜂の巣状の病変もあり、血流が遅いタイプの脈管奇形の一種とされています。従来「海綿状血管腫」「筋肉内血管腫」「滑膜血管腫」と呼ばれていたものは、ISSVA分類では静脈奇形となります。静脈奇形単一の疾患のみならず、グロムス静脈奇形、家族性皮膚粘膜静脈奇形などもこの疾患の範疇に含まれます。患肢の肥大を伴うクリッペル・トレノネー症候群にも認められます。
 病変の大きさや分布は様々で、皮膚・軟部組織だけではなく骨や臓器など全身のどこにでも生じますが、頭頸部に最も多いとされています。境界がはっきりした孤立性のものから、びまん性、浸潤性のものなどがあり、皮膚に近い部分にある病変は青紫色に見えますが、深いところにある病変は皮膚の色には変化がありません。膨らんでいる病変の多くは触れると柔らかく、病変部を上に挙げたり手で圧迫したりすると小さくなり、元に戻すとまた膨らみます。ただし、病変の血液の流出路が狭い病変では、これらの変化が見られない場合もあります。病変部の血液の流れが遅いため、血栓が石灰化して静脈石ができることがあり、皮膚の上から硬く触れることもあります。自然に消退することはなく、成長に伴って症状が進行し、外傷などの外的刺激や、月経や妊娠といったホルモン変化により症状が悪化することもあります。
 病変の部位によって症状は様々で、頭頸部は膨張や皮膚の色調の変化、見た目などの問題があり、頚部や口腔咽頭では構音障害、そしゃく嚥下障害のほか呼吸困難になることもあります。また、四肢では多くの症例で疼痛が問題となることが多く、血液貯留が増加する起床時や患部を下にさげた状態の時に生じるものや、病変内の静脈石や血栓性静脈炎によって生じるものもあります。四肢の関節内病変では、主に膝に生じますが、関節の膨張や疼痛から動かせる範囲が限られて関節症へ発展するものもあります。巨大な病変や多発性の病変も少なからず認められ、患肢の肥大や変形、萎縮、骨溶解などによる運動機能障害も稀ではありません。多発性の病変では、消化管内の血管奇形を合併した青色ゴムまり様母斑症候群があり、下血による貧血を伴うこともあります。
 治療は、硬化療法、外科的治療、レーザー、弾性ストッキングによる圧迫療法、薬物療法などがあります。分子標的治療薬の効果にも期待が高まっていますが、まだ確立されていません。治療にはそれぞれ一長一短があるため、主治医とよく相談しながらそれらの選択や組み合わせをすることが重要です。病変が大きいほど、また、病変が広範囲でびまん性であるほど難治となるため、適切な治療を適時行いながらできるだけ快適な日常生活を送れるように治療のゴールを充分に理解しながら治療を進めていくことが大切です。

 胎生期における脈管形成の過程でおこる何らかの異常により、拡張・蛇行した異常血管を形成し、その病変内にシャント(毛細血管を介さずに動脈と静脈が短絡する箇所)を1つまたは複数有する血流が速いタイプの疾患です。流入動脈と流出静脈が複雑に絡む部分は、しばしばナイダス(巣の意味)と表現されます。流入動脈と流出静脈が直接短絡する場合は動静脈ろうとも表現され、いずれも脈管奇形の一種とされています。
 病変の大きさや分布は様々で、皮膚・軟部組織だけではなく骨や臓器など全身のどこにでも生じ、境界がはっきりした孤立性のものから、びまん性、浸潤性のものまであり、稀に多発する場合もあります。自然に消退することはなく、進行性の症状があり、外傷などの外的刺激や、月経や妊娠といったホルモン変化により症状が悪化することもあります。
 進行性の症状については、それらを整理したSchobinger(ショービンガー)分類という臨床病期分類があります。Schobinger(ショービンガー)分類は、第Ⅰ期(静止期)では皮膚が赤くなったり熱を帯びたりして、膨張や拍動はあまりなく、毛細血管奇形との区別が困難な場合もあります。第Ⅱ期(拡張期)では次第に病変の膨張や増大、血管の拡張や蛇行が見られ、触ると拍動や血液の流れる振動を感じたり、血管雑音が聞こえたりします。第Ⅲ期(破壊期)では持続する疼痛や皮膚の潰瘍、出血、感染、壊死など、症状が増悪します。四肢の病変では手や足の指の虚血障害、難治性の潰瘍、骨関節の変形や萎縮による運動機能障害などをもたらし、さらに第Ⅳ期(代償不全期)ではシャント量の増大による心不全をもたらします。
 治療は、塞栓術や硬化療法などの血管内治療、外科的治療、弾性ストッキングによる圧迫療法、薬物療法などがあります。広範囲の切除術では植皮や皮弁による再建が必要となったり、重症感染症や心不全の救済手段として四肢では患肢切断を余儀なくされることもあります。分子標的治療薬の効果にも期待が高まっていますが、まだ確立されていません。治療にはそれぞれ一長一短があるため、主治医とよく相談しながらそれらの選択や組み合わせをすることが重要です。進行例では根治が困難となり再発しやすい傾向があるため、状態をうまくコントロールしながら治療を進めていくことが大切です。

 胎生期におけるリンパ管形成の過程におこる何らかの異常により発生する大小のリンパ嚢胞を主体とした疾患です。腫瘍性(異常な細胞の増殖)はなく、リンパ管の形成異常と考えられ、脈管奇形の一種とされています。先天性のものが多く、主に小児に発生しますが、明らかに成人になって発症する例もあり、胎生期の形成異常以外の病変形成の可能性もあります。従来「リンパ管腫」と呼ばれていたものはISSVA分類ではリンパ管奇形となります。リンパ管の嚢胞径1cmを境界としてマクロシスティックとミクロシスティック、その混合型の3種類に分けられています。
 病変はリンパ管の分布する全身のどこにでも発生しますが、特に頭頚部や縦隔、腋窩、腹腔、後腹膜内、四肢によく発生します。病変の腫瘤は柔らかいものも硬いものもあり、内部のリンパ液の量や内出血に応じて変化します。病変の部位によって症状は様々で、頚部、舌、口腔では中下咽頭部での上気道狭窄、縦隔では気管の狭窄による呼吸困難をもたらして気管切開を必要とすることもあります。また、腋窩や腹腔内、四肢などでは機能障害を生じたり、皮膚や粘膜ではぶつぶつとした発疹が集まってリンパ漏、出血、感染を繰り返すこともあります。特に頭頚部においては腫瘤形成、変色、変形などによる見た目の問題が大きく、社会生活を送る上での障害となり、生涯に渡ってQOLが制限されることもあります。どの部位の病変においても経過中に内部に感染や出血を起こして急性の膨張や炎症を繰り返すことがあり、慢性的に炎症を繰り返す病変では腫瘤が増大することもあります。
 治療は、外科的治療、硬化療法、薬物療法などがあります。薬物療法については、2021年9月に分子標的治療薬であるシロリムスが承認され、新たな治療選択肢として今後徐々に一般化すると考えられていますが、特有の副作用があることや、従来より行われている手術や硬化療法との効果の比較や併用できるかどうかの検討は行われていないため、適応を慎重に検討しながら研究を進めていく必要があるとされています。また、近年では漢方薬で腫瘤が縮小したという報告が日本で増えており、重篤な副作用を生じにくい内服薬として注目されていますが、その効果を確実に評価できる研究報告がないため、今後の研究結果が期待されています。自然に退縮する例も報告はあるものの、治療については病変の部位や大きさ、機能障害の程度、見た目の問題、疼痛など様々な状況を考慮しながら、個別に検討していくことが大切です。

 リンパ管腫症は、中枢神経系を除く全身の臓器(骨を含む)に拡張したリンパ管組織が浸潤する稀な疾患です。ゴーハム病は、全身の骨が連続性、破壊性に溶解する稀な疾患で、溶解した部位は血管やリンパ管組織に置き換わり、内臓への浸潤はないとされていますが、乳び胸(にゅうびきょう)を起こすリンパ管腫症と共通する点が多く、いずれも脈管奇形の一種とされています。
 日本では平成24、25年に研究班によって全国調査が実施され、症状についての特徴が明らかになりました。それによると、リンパ管腫症、ゴーハム病ともに浸潤臓器によって骨溶解や乳び胸、胸水、心嚢水(心臓の周りをとりかこむ袋である心嚢と心臓の間に心嚢液という液体が溜まる)、縦隔腫瘤、腹水、肝脾臓浸潤、リンパ浮腫、血液凝固異常などがあり、2つを比較すると、リンパ管腫症は胸部病変、脾臓病変、腹水、凝固異常の頻度が高く、ゴーハム病は骨病変の頻度が高かったことがわかりました。リンパ管腫症の約86%に見られる胸部病変は、咳、喘鳴、胸水、心嚢水、縦隔浸潤などを起こし、予後が不良である一因となっています(56例のうち17例が死亡)。
 2つの疾患に共通にみられる全身におよぶ骨溶解は、局所の疼痛、膨張、脆弱性、病的骨折、側わん、四肢の短縮を起こすことがありますが、それぞれ特徴があり、リンパ管腫症は脊椎、四肢、骨盤、肋骨などに多く、病変の数はゴーハム病よりも多くて髄質(骨の中)を中心に散在性に骨溶解がおこります。一方、ゴーハム病の骨溶解は四肢、頭蓋骨、脊椎、肋骨に多く、皮質(骨の表面)から骨溶解がおこり、病変周辺の軟部組織への浸潤も見られます。連続性、破壊的に進展して、骨の両側にある太い部分まで至ると関節を破壊することなく相対する隣接骨を侵すことが特徴です。
 治療は、外科的治療、硬化療法、放射線治療、薬物療法などがありますが、リンパ管腫症およびゴーハム病は病変が全身にびまん性に広がっていることが多いため、治療に難渋することが多く、いくつかの治療法を併用して行って症状の改善や安定化をめざします。胸水の貯留に対して胸腔穿刺をしてドレナージ(溜まった胸水を排出すること)を行うこともありますが、根本的な解決とはなりません。リンパ管造影を行ってリンパ管の漏れている部位が特定できれば、局所手術や胸管の塞栓術なども有効となる場合があります。コントロールが困難な乳び胸や心嚢水、胸壁や胸膜に腫瘤性病変がある場合には、呼吸障害に進行する前に放射線治療が検討されますが、肺や心臓に影響が出る可能性もあるため、注意が必要とされます。骨病変に対しては放射線治療が有効であった報告が約77%と多いものの、その多くは成人の例であったため、小児の場合には特に照射後の骨の成長障害や二次的におこるがんなどの影響も考慮しながら、照射量を抑えたり減らしたりする方法も検討したほうがよいとされています。なお、骨病変については、病的骨折を起こした場合には整復術や固定術、人工関節置換術などの整形外科的手術を行います。薬物治療については、従来からの標準的治療のみでは治癒が困難な場合に、日本でも2021年9月に承認された分子標的治療薬であるシロリムスが適応となります。新たな治療選択肢として期待されていますが、副作用もあるため、治療の適応や治療期間、中止時期などは今後さらに検討が必要であるとされています。
 いったん症状が改善して寛解状態となり、無治療で経過観察できる場合もありますが、寛解と増悪を繰り返す症例も多いため、慢性期も病変部位に応じたケアや定期検査が必要です。

 三叉神経分枝(眼の神経、上あごの神経、下あごの神経)のあたりにおける顔面の毛細血管奇形、脳軟膜(脳に近い内部の膜)と眼の脈絡膜(眼球の外側にある硬い強膜と網膜の間にある膜)にある血管奇形が特徴の症候群で、胎生初期の血管形成過程における異常が原因と考えられている疾患です。1歳までに約80%でけいれんを発症し、けいれんによって顔面の毛細血管奇形と反対側の躯幹部(くかんぶー頭部と四肢を除いた部分)に半身麻痺、萎縮を生じます。また、精神発達遅滞が約半数にみられます。脳軟膜の静脈奇形は、顔面の毛細血管奇形と同じ側にあることが多く、頭頂葉、後頭葉、前頭葉、の順に多いとされています。眼の脈絡膜の血管奇形についても顔面の毛細血管奇形と同じ側にあり、約70%でみられます。ほかに、眼圧が高くなる場合もあり、約30%には緑内障が合併します。それぞれの症状にあわせた治療を検討していくことが必要です。

 病変のある四肢の骨軟部組織の過成長と血流の遅いタイプの脈管奇形を伴う症候群です。広範囲に毛細血管奇形が広がり、約75%以上は片側の下肢に生じますが、上肢や両側にみられる場合もあります。治療は、硬化療法や弾性ストッキングによる圧迫療法などがあり、分子標的治療薬の効果にも期待が高まっていますが、まだ確立されていません。それぞれの症状にあわせて治療を検討していく必要があります。

 病変のある四肢の過成長とびまん性の小さな動静脈ろう、動静脈シャントがみられる、血流の速いタイプの脈管奇形を伴う症候群です。動静脈奇形があるため、皮膚が熱を帯びたり、リンパ浮腫、心不全などをもたらすこともあります。治療は、硬化療法や弾性ストッキングによる圧迫療法などがありますが、それぞれの症状にあわせて治療を検討していく必要があります。

 四肢体幹に多くみられ、皮膚表面に毛細血管と静脈が拡張する疾患です。皮膚潰瘍、カフェオレ母斑、真皮メラノサイトーシス、皮下脂肪や筋肉の形成不全を合併することがあります。典型例では皮膚症状は年齢と共に改善して思春期に消退しますが、拡張血管の一部や筋肉、軟部組織の萎縮が残ることもあります。症状が軽度で治療の必要がなく、診断に至らない症例も多いと考えられています。

 皮膚に多発する0.1~5cm程度の青色~黒色の静脈奇形と消化管の静脈奇形を特徴とする疾患です。消化管粘膜の静脈奇形により、消化管出血をもたらすこともあります。貧血、慢性凝固障害、血胸や腫瘍、高カルシウム血症、内臓の脈管奇形などを合併したという報告もあります。治療は、消化管の静脈奇形に対しては、内視鏡的硬化術やレーザー凝固術、外科的治療が適応となることもあります。また、分子標的治療薬の効果にも期待が高まっていますが、まだ確立されていません。

 皮膚や粘膜の小血管の拡張を特徴とし、それによって鼻血や消化管出血を生じる常染色体(性染色体以外の染色体)顕性形式の遺伝性疾患です。血管内皮細胞の細胞間隙(さいぼうかんげきー細胞と細胞の間にできる隙間)が消失して、毛細血管と細小静脈の血管壁や周囲組織の形成不全によって血管腔が拡張します。約60%は16歳までに発症するといわれています。診断基準として、①くりかえす鼻血、②多発性の毛細血管の拡張、③臓器の動静脈奇形または動静脈ろう、④一親等までの家族歴があり、このうち3つ以上があれば確定、2つ以上で疑いとなります。治療は、それぞれの症状にあわせて個別に検討していくことが大切です。(特定非営利活動法人日本オスラー病患者会のページもご参照ください。)

参考:血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形・リンパ管腫症診療ガイドライン2022