特定非営利活動法人 血管腫・血管奇形の患者会

治療について

 血管腫・血管奇形の治療には、侵襲的治療(体に負担を与える外科的な治療)と保存的療法(体を傷つけない内科的な治療)があり、侵襲的治療としては、外科的治療(手術)、硬化療法、塞栓術、レーザーなどが、保存的療法としては、弾性ストッキングなどによる圧迫療法、漢方、鎮痛薬などの薬物療法、カバ―メイクなどがあります。最近では分子標的薬を使用した新たな薬物療法も出てきて注目されています。血管腫・血管奇形は疾患の種類がとても多く、その種類や部位によっても個々に状態が異なるため、同じ疾患名でも適応となる治療法が異なったり、複数の治療法を組み合わせて行う場合もあり、治療は主治医とよく相談し、個別に決めていく必要があります。以下は、それぞれの治療についての一般的な内容です。

目次
1. 外科的治療
2. 硬化療法
3. 塞栓術
4. レーザー
5. 弾性ストッキングなどによる圧迫療法
6. 漢方
7. 薬物療法(漢方以外)
8. カバ―メイク

 外科的治療は、病変部が局限性の場合には根治する可能性もありますが、病変部が浸潤性の場合には筋肉組織の切除や神経損傷による機能障害を残したり、病変をかえって増悪させることがあるため、適用とならない場合もあります。病変部のボリュームを減らすために行ったり、塞栓術と併用して行うこともあります。

 硬化療法は、主に静脈奇形に行われ、病変部に硬化剤(無水エタノール、ポリドカノール、オレイン酸モノエタノールアミンなど)を直接注入することで、病変部の組織を壊し、細胞のアポトーシス(細胞の自然死)を促す治療法で、比較的低侵襲な治療といわれていますが、通常は病変を完全に消失させることは難しく、複数回の治療を要することが多いです。病変部が袋状で硬化剤が病変部に留まりやすい場合にはよく効きますが、病変部に血液の流れが比較的ある場合や病変がびまん性の場合には、なかなか効かなかったり、硬化療法の適応にならなかったりすることもあります。

 塞栓術は、主に動静脈奇形に行われ、動脈(静脈からの時もあります)からカテーテルを入れて血管内に塞栓物質(薬剤、コイルなど)をいれることで、動静脈の短絡部の血流を減らしたり、消失を図ったりする治療法です。直接穿刺で行われることもあります。動静脈奇形の塞栓術で有効な治療効果を得るためには、動静脈の短絡部を主体に塞栓術を行うことが重要で、病変の流入動脈への不適切な塞栓術は一時的には病変が縮小する場合もありますが、多くは再発や増悪をひきおこし、その後の治療も難しくします。流入動脈への不適切な塞栓術によって病変が増悪するのは、動脈が塞栓されて虚血状態となったところに新たな血液循環を生みだそうとする働きがおこるためで、かえって複雑な血管を生じさせてしまうこともあります。このため、動静脈奇形における塞栓術は、手術と組み合わせて術前に行ったり、特殊な動静脈ろうのような形態の動静脈奇形以外では推奨されていません。ただし、近年では、カテーテルの進化や画像診断装置の性能向上に伴って、動静脈奇形の形態がより詳細にわかるようになり、血管造影による分類によって動静脈奇形の塞栓術の根治率や治療回数の推定に有用な可能性があるとされています。

 レーザーは、主に毛細血管奇形や乳児血管腫に行われ、重篤な合併症が少なく、特に1歳前のレーザー治療は有効性が高い可能性があるとされています。効果については部位によって差が見られ、顔面、頚部ではその他の部位に比べて有用性が高い一方、四肢では色素沈着などの合併症をきたしやすい可能性があります。また、治療後に色調の再発が起こる可能性がありますが原因は明らかではなく、再発予防のための研究はいまだ安全性や有効性が確立されているものがないため、治療後の再発を念頭において治療計画を立てる必要があるとされています。静脈奇形にレーザーが有用だとする報告もありますが、治療後の瘢痕形成が問題となることが少ない粘膜・舌・口唇の小さな病変が対象となり、治療法としては標準化されていないため、手術や硬化療法など他の治療と鑑みて治療を選択する必要があります。

 弾性ストッキングによる圧迫療法は、病変の血液貯留を減らし、痛みの緩和、血栓・静脈石形成の予防、凝固障害の減弱などに効果的です。乳児血管腫でも、プロプラノロールが第一選択とはなっているものの、すべての症例で投与が可能というわけでもないため、熟練者が圧迫による皮膚炎や局所または周囲の成長障害などに充分注意しながら慎重に圧迫療法を行うこともあります。圧迫するものとしては、医療用のオーダーメイドや既製品のものから、市販されているサポーターや弾性包帯など様々ですが、圧迫の強さや圧迫方法などは自己判断せず、主治医に相談してから使用することが大切です。

 漢方(越婢加朮湯ーえっぴかじゅつとう・黄耆建中湯ーおうぎけんちゅうとう)は、近年主にリンパ管奇形において腫瘤縮小効果を認めたという報告が日本で増えています。西洋医学的視点では局所的な異常(=疾患)を分析的に認識しますが、漢方学的視点では患者の全体的な不調(=病態)を総合的に認識するため、個別化医療となり、疼痛の緩和、シロリムスの副作用の緩和、全身症状など、どのような症状にも適応が可能です。前述した漢方以外の漢方薬も使用されており、リンパ管奇形のみならず、その他の疾患にも使用されています。重い副作用を生じにくい内服薬なので注目されていますが、現時点では充分な研究結果がないため、今後に期待されています。漢方は様々な診察によって個々の全身のバランスを判断し処方されるため、同じ疾患でも同じ処方になるとは限りません。自己判断せず、血管腫・血管奇形に詳しい漢方医にきちんと処方してもらうことが大切です。

 薬物療法には、疼痛や血栓予防などに対して処方される内服薬や、乳児血管腫に使用されるプロプラノロールやステロイドなどの治療薬、さらに最近では分子標的治療薬という、病気の原因となる遺伝子を標的に治療をする内服薬などがあり、注目を集めています。難治性リンパ管奇形には、シロリムスという内服薬が2021年9月に承認され、新たな治療選択肢として今後徐々に一般化していくと考えられていますが、副作用もあるため、適応を慎重に検討しながら研究を進めていく必要があります。分子標的治療薬について詳しくはこちらの難治性血管腫・血管奇形薬物療法研究班情報サイトをご覧ください。

 このほか、見た目の問題に対しては、カバ―メイクといわれる方法で見え方を少し変えることで、社会生活を送る上での心理的負担を軽減することもできます。カバ―メイクは顔の疾患のみならず体にも使用でき、洋服についても落ちにくかったり水に濡れても落ちないものもありますので、学校生活を送るお子様やふだんお化粧をされない男性にも使いやすくなっています。病院でカバ―メイクの紹介がある場合もありますが、そうでない施設もありますので、ご興味のある方は個別にお問合せください。

参考:血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形・リンパ管腫症診療ガイドライン2022